アトピー性皮膚炎と漢方

昔からアトピー体質です。お風呂で悪化したり、寝る前に皮膚が痒くなってなかなか寝付けません。

こういった方のお悩みに向けて記事を書いています。

あきらめないで下さい!

今までこういった症状でお悩みの患者さまに対し、漢方薬をお出ししてきた経験から、漢方で対応することは可能だと思います。「アトピー性皮膚炎」に対する漢方治療を解説するにあたって、実際の症例をご紹介します。もしよろしければ御覧下さい。

目次

アトピー性皮膚炎の原因

アトピー性皮膚炎の原因

私たちの生活環境や食生活の欧米化などが原因で、この20年くらいの間にアトピー性皮膚炎、喘息ともに倍以上に増加したと言われています。

参考:平成29年厚生労働省 患者調査(アトピー患者推移)

アトピー性皮膚炎は文明の進化と共に増加し、しかも先進諸国ほど罹患率が増えています。

免疫学では、アトピー性皮膚炎はⅠ型アレルギーに分類され、ⅠgE抗体が関与する抗原抗体反応が原因とされています。

赤ちゃんや乳幼児は、免疫がまだ未発達なこと、とくに腸管免疫(胃腸の未発達)が完成されていないことがあげられます。ですので、卵などの分子量の多いタンパク質などがアレルゲンになるのだと思います。

アトピー性皮膚炎はどんな病気?

「アトピー」という言葉の語源はギリシャ語のATOPOSに由来しており、「奇妙な」「不思議な」と言った意味です。 1923年、家族内・家庭内に発生する奇妙なアレルギー病を指し、先天的に過敏症を起こしやすい体質のことを「アトピー」と名づけられました。

痒みを伴い慢性的に経過する皮膚炎ですが、その根本には皮膚の生理学的異常(皮膚の乾燥とバリアー機能異常)があり、そこへ様々な刺激やアレルギー反応が加わって生じると考えられています。

アレルギー機序の詳細が明らかにされた現在では、アトピーの特徴をまとめると次のようになります。

  1. 遺伝性で家族内にいろいろなアレルギー疾患をもつ人がいる
  2. 子どものうちに発病し、同時にいくつかのアレルギー疾患を合併していることが多い
  3. 血液中のIgE値が高い
  4. アレルギー皮膚反応が陽性に出る
  5. 血液中と分泌物中の好酸球が増える

アトピー性皮膚炎の西洋医学的治療

アトピー性皮膚炎は遺伝的素因に加え、様々な内的、外的悪化要因を持った皮膚病ですので、現時点では病気そのものを完全に治す薬物療法はなく、対症療法が治療の原則とされています。

  1. 薬物療法
  2. 皮膚の生理学的異常に対する外用療法・スキンケア
  3. 悪化因子の検索と対策

の 3 点 が基本となります。

基本的には主にステロイドの外用薬にて、痒みと炎症を抑えるという治療が行われます。炎症をコントロールするという意味で、ステロイドの外用剤は非常に有効です。

ただし、ステロイドの外用薬は確かに漫然と使っていれば、皮膚に様々な副作用を起こしえます。適正な使用が求められます。

しかしステロイドの外用薬は決して危険な薬ではありません。現在では、寛解状態を維持するプロアクティブ療法などが確立されており、適正な使用ができれば薬剤の副作用を抑えつつ皮膚症状をコントロールできる、エビデンスレベルの高い治療法があります。

プロアクティブ療法

再燃をよく繰り返す皮疹に対して、ステロイド外用薬やタクロリムス軟膏などの抗炎症外用薬により速やかに皮膚の状態を良くした後に、保湿剤によるスキンケアに加え、抗炎症外用薬を定期的(週2回など)塗って、皮膚の良い状態を維持する治療法

参考:公益社団法人日本皮膚科学会

アトピー性皮膚炎と漢方治療

アトピー性皮膚炎と漢方治療

アトピー性皮膚炎には漢方治療が有効であると実感しております。そのうえで西洋医学的治療と並行して行うことは、大変有意義と思います。

西洋医学が病気の部分を分析的に解明しようとするのに対して、漢方医学では全体のバランスを基本に考える、という特徴があります。皮膚病に対しても、皮疹という局所的な状態を全身状態の背景の中でみつめます。

皮膚も全身の一部だからです。

皮膚の状態を明確にして、それぞれの皮疹に対応することは当然重要ですが、もっと大切なことは全身的な状態を把握した中で皮膚の状態をみることです。

つまり、胃腸の状態や筋肉の付き方、食事の内容や量、睡眠時間など、皮膚の状態とカラダ全身の状態とを同時にみつめて対応します。これらの点が、漢方と西洋医学的治療と並行して行うと良いとされる根拠となります。

漢方医学では、表面に現れた皮膚の治療を「標治」、全身的な体質をみて、根本的に改善することを「本治」と呼びます。「標治」「本治」にそれぞれの処方が用意されています。

基本的には「標治」を優先します。その後、食事や睡眠などの生活習慣を改善しつつ、「本治」に移行していきます。場合によっては両方同時に行う、または本治を優先することもあります。

アトピー性皮膚炎を漢方的に可視化する

アトピー性皮膚炎を漢方的に可視化する

アトピー性皮膚炎の原因①「痰飲」

漢方的にはアトピー性皮膚炎などのアレルギー症状の原因は、体の中の余分なお水「痰飲」であると考えています。

この病理産物が気管支に移行すれば喘息、目の粘膜に移行すれば結膜炎、皮下に張り出せば浮腫みにつながります。

アトピー性皮膚炎の原因②「湿熱」

そして皮下で痰飲が蒸されれば「湿熱」になります。

湿熱体質の所見
  • 入浴で悪化
  • 夏場に悪化
  • 皮膚を触ると熱い
  • 汗が噴き出すように出る

ここで大切なのは「湿と熱を切り離す」ことです。

ただ清熱すればアトピー性皮膚炎は良くなるわけではありません。「温病」に対する考え方が必要になってきます。

湿温について

湿温の初期には、辛温発汗.苦寒攻下.滋養陰液などの治法は禁忌。

呉鞠通は「これを汗すればすなわち神昏耳聾し、甚だしければすなわち目くらみ言うを欲せず、これを下せばすなわち洞泄し、これを潤せばすなわち病深く解せず」と、湿温初期の治療における三大禁忌を指摘してる。

湿温の弁証論治

治療では、湿と熱を分離して除くことを重視すべきで、湿を除去して熱を孤立させると治癒しやすい。

呉鞠通「ただ清熱すればすなわち湿退かず、徒らに祛湿すればすなわち熱いよいよ熾ん」

祛湿と清熱を合理的に応用することが大切。

このような内容が温病学のテキストに記されています。

つまり、夏場の部屋をエアコンで除湿するイメージです。湿を除去して熱を孤立させると治癒しやすくなるよと。清熱剤の他にも茯苓や木通などの利湿薬をバランス良く使う手法が必要になってきます。

アトピー性皮膚炎の原因③「虚労」

アトピー性皮膚炎の背景に「虚労」という病態があります。

虚労…疲労しやすく体力が衰えた状態

胃があまり丈夫でなく、食が細い。仕事での閾値が低く、疲れやすい。ストレスをため込みやすく、夜ドカ食いしてお腹を壊す。こういった方がおられます。

アトピー性皮膚炎の病態には「痰飲」「湿熱」「虚労」が背景にあり、我々漢方家はこういった状態を改善していくためのお手伝いをしております。

アトピー性皮膚炎に使用する漢方処方

標治に使う漢方薬

黄連解毒湯《外台秘要》(黄連・黄芩・黄柏・山梔子)

アトピー性皮膚炎に第一選択的に用いられる方剤。全身の熱を去る。清熱作用を強める為に石膏、湿を除く為に茯苓・木通などが必要となることが多い。

竜胆瀉肝湯《薛氏医案》(当帰・地黄・木通・黄芩・沢瀉・車前子・竜胆・山梔子・甘草)

湿熱に用いる処方。肝経と呼ばれる、陰部や身体の側面を走る経絡上に症状が現れるものに有効。特に陰部搔痒感に効果的。ただ当帰と地黄は胃に重く、胃腸への配慮が必要。

本治に使う漢方薬

苓桂朮甘湯《傷寒論・金匱要略》(茯苓・白朮・桂皮・甘草)

「立ちくらみを起こしやすい体質を持った方」が起こす頭痛や動悸、めまいや浮腫みに効果がある。心下(胃腸)の痰飲を除き、桂枝で陽気を鼓舞する。小児や体格が細い女性に使いやすい。桂枝を含む為、皮膚炎が酷い時には使えない。

平胃散《和剤局方》(蒼朮・厚朴・陳皮・大棗・甘草・生姜)

お腹の湿気取りとして有名な処方。軟便気味で便がすっきり出ない、という状態に対して効果を発揮する。黄連解毒湯と合わせて使うのも良い。黄連・黄芩を加えた芩連平胃散はアトピー性皮膚炎に有効。

薯蕷丸《金匱要略》(薯蕷・当帰・桂枝・麯・乾地黄・豆黄巻・甘草・人参・阿膠・芎窮・勺薬・白朮・麦門冬・杏仁・防風・柴胡・桔梗・伏苓・乾薑・白斂・大棗)

薯蕷丸(しょよがん)は一般的にはほとんど知られていない。古来では「血痺虚労」という病態に使われていた。アトピー性皮膚炎の背後には「虚労」がある。虚労を改善する為の黄耆建中湯・小建中湯は有名だが、桂枝が入るからかアトピー性皮膚炎に使いづらい。その場合、薯蕷丸を用いる。小児の体質改善に有用。

アトピー性皮膚炎の治療に必要な食養生

アトピー性皮膚炎の治療に必要な食養生

アトピー性皮膚炎の方の食事の不摂生

ストレスで過食に走る。甘いもの、脂っこいものが好き。だが、お腹を壊しやすい。痩せの大食いで、まわりから指摘を受けない。こんな方が多く、食事内容の整理が必要です。

皮膚は甘いもの、脂っこいもので悪化します。ニキビが治らないのも、これが原因です。食物繊維をたくさん摂って、ゆっくり噛んで、旬のもの、温かいもの、和食を中心に召し上がって下さい。

アトピー性皮膚炎の方の睡眠不足

皮膚は寝ないと治りません。7.5時間は眠りましょう。皮膚炎が酷い時、しっかりと保湿してグッスリ眠ってみて下さい。翌日には皮膚の状態が良くなっているはずです。

アトピー性皮膚炎の方の運動不足

運動しなくなって皮膚炎が悪化する方がおられます。汗をかかなくなるのと、筋力不足が原因と思われます。筋肉には蔵血能と保水力があります。

運動は大事です。アトピー性皮膚炎ガイドラインにも「発汗後の汗対策指導を重視し,発汗低下症例では汗をかけるようになることが治療の到達目標の一つとなりうる」との記載があります。

ベタベタした汗はナトリウムを多く含み、皮膚によくありません。サラサラした汗が出るようになるくらい、継続して運動してみて下さい。

皮膚炎がひどい時に汗をたくさん掻くと悪化します。皮膚炎が治まってから運動して下さい。

アトピー性皮膚炎の方のメンタルの弱さ

喘息もそうですが、アレルギー症状があると子供を甘やかしてしまいがちです。ストレスから遠ざけてしまうこと。実はあまり良いことではありません。

ストレス耐性を身に付ける。何かを乗り越える経験をする。好きなことに熱中する。そして、

ときめく★★★

メンタルの安定は、アレルギー体質の改善に必要なことです。

アトピー性皮膚炎と漢方 まとめ

アトピー性皮膚炎を改善するには、「心身が重い状態を作らないようにする」ことが大切です。そして漢方治療を行うのであれば、「標治」「本治」をバランス良く行うことが重要となってきます。

特に小児の場合、「標治」よりも「本治」で良くなるようなケースも多いです。それは胃腸機能を賦活させる力が漢方薬には備わっているからだと思います。

腹(消化機能)を作って皮膚を治す。漢方ならではの考え方ですね。

一概に「この薬」を使えば良くなるわけではありません。皮膚だけでなく全身の状態も細かく観察し、「標治」でいくか「本治」でいくか、または「標本同治」といってこれらを同時に行うか。この見極めが重要なポイントになります。

アトピー性皮膚炎でお困りの方、もしよろしければご相談下さい。

目次