【漢方処方解説】柴胡加竜骨牡蛎湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)

こちらの漢方処方解説では、今までの書籍での学習と漢方研究会で習得した内容をベースに、実際に患者さまにお出しした経験から、感じたことや自分の考えを記載しています。

目次

柴胡加竜骨牡蛎湯の出典

傷寒論【第一〇七条】/太陽病中篇

[訓読]傷寒、八九日、之を下し、胸満煩驚し、小便不利、譫語し、一身尽く重く、転側すべからざる者は、柴胡加竜骨牡蠣湯之を主る。

[現代語訳]傷寒にかかり八、九日経過しても、まだ小柴胡湯で和解すべき時期に下法をやって、体内の脱水(小便不利)によって熱は下がらず、情緒不安定になり、煩驚、不眠、譫語の状態の者を、柴胡加竜骨牡蛎湯で治す。

柴胡加竜骨牡蛎湯の構成生薬・効能

柴胡加竜骨牡蛎湯の構成生薬

柴胡5g・半夏4g・茯苓3g・桂皮3g・大棗2.5g・人参2.5g・竜骨2.5g・牡蛎2.5g・生姜0.5g・大黄1g・黄芩2.5g

 *出典には鉛丹(鉛)が入る

各生薬の効能
  • 柴胡×黄芩:鎮静、清熱、自律神経緊張緩和作用。胸脇に鬱積する熱を駆り、心下の血熱を下降して、胸脇苦満、往来寒熱、嘔、心煩、咳嗽、経水不調、黄疸等を治す。
  • 桂枝×茯苓:心悸亢進に配合される(苓桂朮甘湯・苓桂甘棗湯等の苓桂剤の方意を持つ)。
  • 竜骨×牡蛎:水気を整え、固まる水を柔らかくし巡らせる。臍下(竜骨)・脇腹(牡蛎)の動を主治する。煩驚・煩躁を治す。
  • 半夏×生姜:強い制吐作用を持ち、吐気を治す。胃腸の蠕動を調整する働きがある。また、鎮咳、去痰作用もある。
  • 人参:消化吸収機能や全身の機能を賦活して抵抗力を高める。
  • 大棗:諸薬を調和する。栄養、滋潤作用があり、柴胡、黄芩、半夏、生姜の燥性を和らげる。
  • 大黄:抗炎症作用があり、柴胡、黄芩に協力して熱を排除する。

柴胡加竜骨牡蛎湯の運用のポイント

柴胡加竜骨牡蛎湯の使用目標

  • 胸満煩驚(胸苦しくて息が深く吸えず、不安感や焦りが極まり、音や光などの刺激に恐怖して驚き、そのたびに強く動悸をうつ)
  • 不安神経症・対人恐怖症・高所恐怖症・強迫神経症。
  • 頭が重く足が軽くて歩いても雲の上を歩くように身体がゆれる・ちょっとした物音や不意のことで驚きやすく心悸亢進がおきる・冷や汗が出る・手足が震える・呼吸が早くなる・寝つきが悪く眠りが浅く夢を見て飛び起きる・地の底に落ちてゆくような感じがする・ひとりで外出できない・高いところから下を見ることができない・不安感・イライラなど

柴胡加竜骨牡蛎湯が合う方の身体所見に見られるポイント

  • 胸脇苦満、心下痞
  • 臍上悸
  • 小便不利
  • 便秘傾向
  • 脈は緊張強く、跳動する傾向がある

歴代医家による柴胡加竜骨牡蛎湯の使用経験・口訣

  • 本方は必ずしも傷寒の熱病ばかりではなく、一般に雑病の鎮驚・鎮静薬とし、不眠煩驚と心悸亢進等の神経症状に用いる。(東医雑録/山本巌)
  • 上衝・心悸亢進・不眠・煩悶等の症状があり、驚きやすく、あるいはイライラして怒りやすく、気分が変わりやすく、落ち着きを欠き、甚だしいときは狂乱・痙攣等の症状を呈する。小便不利・便秘の傾向がある。また一身尽く重く、転側すべからずとあることより、動作不活発、身体を動かすのが大儀であると訴える疲労感、浮腫や麻痺のあるものに用いられる。(臨床応用漢方処方解説/矢数道明著)
  • 胸の中一杯につまりたる気持ち気落ち着かず驚き易く小便の出悪く、うわごとの様な言を言ひからだ中が重くして身動きもならぬ者。大病中此証を発する者もあり、又は平常の気鬱が亢じて此の証を生ずる者もあり、便通は大概秘し勝ちなり。(新古方薬嚢/荒木性次)
  • 狂病、脇腹動甚しく、驚く人避け、こつ座(ぼんやりして座る)独語し、昼夜眠らず、或いはさい疑(そねみ疑う)多く、或いは自ら死せんと欲し床に安からざる者を治す。(類聚方広義/吉益東洞原著/尾台榕堂校註)
  • 本方は最も水気が多いため動悸や煩驚が現れやすい為、茯苓を内包する。水気を整えるから精神症状(驚悸)がとれる。竜骨・牡蛎は津液を保持する。(漢方薬局+C/小岩井慎哉)
  • 柴胡加竜骨牡蛎湯の運用はこの「胸満煩驚」を的確に捉えることができるかという点が全てである。(漢方坂本/坂本壮一郎)

柴胡加竜骨牡蛎湯の使用上の注意

柴胡加竜骨牡蛎湯の注意点

  • 燥性が強く、陰虚・陰虚火旺の者には禁忌。
  • 肝気鬱結が続いて心肝火旺が生じると、自律神経系の過亢進の為、異化作用(エネルギーを放出する反応)が強くなり、陰液の消耗の面が強くあらわれる。その為、半夏・生姜・黄芩などの薬草は弊害になる。滋潤性の白芍・玉竹で陰液を保護する必要がある。その方が実際に鎮静効果がつよくなることが証明されている。
柴胡加竜骨牡蛎湯の加減方
  • 柴芍竜牡湯(さいしゃくりゅうぼとう)<重慶市中医研究所>

柴胡12g・芍薬24g・竜骨24g・牡蛎24g・玉竹24g・茯苓12g・炙甘草6g

引用参考文献
  • 註解傷寒論:影印本 
  • 傷寒論講義:奥田謙蔵著 医道の日本社
  • 実践漢薬学:三浦於菟著 東洋学術出版社
  • 薬徴:吉益東洞原著 大塚敬節校註 たにぐち書店
  • 活用自在の処方解説:秋葉哲夫著 ライフサイエンス
  • 臨床応用漢方処方解説:矢数道明著 創元社
  • 漢方常用処方解説:高山宏世編著 三孝塾
  • 類聚方広義重校薬微:吉益東洞原著 尾台榕堂校註 西山英雄訓訳 創元社
  • 新古方薬嚢:荒木性次著
  • 中医処方解説:伊藤良 山本巌監修 神戸中医学研究会 編著 医歯薬出版株式会社
  • 東医雑録(3):山本巌著 燎原
  • 證&二味の薬徴:田畑隆一郎著 源草社

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