更年期障害(ホットフラッシュ)と漢方


閉経後、急に汗が出たり頭がのぼせるようになりました。症状が不快で困っています…
こういった方のお悩みに向けて記事を書いています。



あきらめないで下さい!
今までこういった症状でお悩みの患者さまに対し、漢方薬をお出ししてきた経験から、漢方で対応することは可能だと思います。
実際に症状が改善した実例はこちら


更年期障害(ホットフラッシュ)の原因


更年期障害(ホットフラッシュ)はどんな病気?
更年期障害は、女性が閉経期を迎える際に様々な身体的・精神的な症状が現れる状態のことです。主な症状として、ホットフラッシュ(一瞬で全身が熱くなる感覚)、汗を大量にかく、イライラや不安感、うつ病的な症状や、睡眠障害などが挙げられます。
更年期障害は、女性の体内にあるエストロゲンというホルモンの減少による影響が大きいと考えられています。治療法として、ホルモン補充療法や漢方薬があります。また、ストレスを避けることや、バランスの良い食事や運動なども症状の緩和に役立ちます。
更年期障害(ホットフラッシュ)の西洋医学的治療
西洋医学的治療には、以下のようなものがあります。
1. ホルモン補充療法(HRT)
閉経後の女性が卵巣ホルモン(エストロゲン)やプロゲステロンを補うことで、更年期障害の症状を緩和する治療法です。
ホルモン補充療法(HRT)は以下のような方法で行われます。
- 経口薬:エストロゲンとプロゲステロンを含む薬を口から摂取します。
- 貼り薬:皮膚に貼るパッチ状の薬剤を使用します。
- ゲル:皮膚に塗る薬剤を使用します。
- 注射剤:筋肉や皮下注射によってホルモンを投与します。
HRTは症状の改善に効果がありますが、副作用もあります。HRTを服用することで個人差はありますが、不正出血、乳房のはり・痛み、吐き気、頭痛などの症状が発生する可能性があります。そのため、医師とよく話し合って適切な治療方法を選択する必要があります。
ホルモン補充療法と乳がん発生の危険性との関連には諸説あり、結論が出ていません。現時点のガイドラインではホルモン補充療法の乳がん発生リスクへの影響は小さいと考えられています。
2. 抗うつ薬や抗不安薬
ホルモン補充療法が適切でない場合に、抗うつ薬や抗不安薬が処方される場合があります。
3. その他の治療
症状によって、適切な治療法が異なりますが、運動や食事の改善、サプリメントの摂取、リラクゼーション法の実践などが含まれます。
更年期障害(ホットフラッシュ)と漢方治療


陰血の不足により発生する「熱」。
私はこの「熱」が更年期障害の原因でないかと考えております。いったいどうゆうことなのか、解説していきます。
更年期障害(ホットフラッシュ)を漢方的に可視化する
黄帝内経素問上巻・上古天真論
[訓読]女子は七歳にして腎気盛し、歯更り(かわ)り髪長ず。二十七にして天癸(てんき:腎精の充実とともに成熟する生殖機能の基本物質または月経のこと)至り、任脈通じ、太衝の脈盛し、月事時を以て下る。故に子あり。三七にして腎気平均す。故に真牙(しんが:おやしらずの歯)生じて長極まる。四七にして筋骨堅く、髪の長極まり、身体盛壮なり。五七にして陽明の脈衰え、面初めて焦(やつ)れ、髪初めて白し。七七にして任脈虚し、太衝の任脈虚し、太衝の脈衰少し、天癸竭き、地道通ぜず。故に形ついえて子なきなり。
[現代語訳]女子は七歳になると、腎気が充たされだし、歯が抜けかわり、毛髪もまた長くなってきます。十四歳になると、天癸が発育・成熟し、任脈はのびやかに通じ、太衝の脈は旺盛になって、月経が時に応じてめぐってきます。だから子供を産むことができます。二十一歳になると、腎気が充満し、智歯が成長して、身体の丈もまたのびきります。二十八歳になると、筋骨はしっかりして、毛髪ののびも極まります。この時期は身体が最も強壮である時期です。三十五歳になると、陽明経の脈が次第に衰え、顔面部はやつれはじめ、頭髪も抜け始めます。四十二歳になると、三つの陽脈は全て衰えてしまいます。それゆえ顔面部はまったくやつれ、頭髪も白くなりはじめます、四十九歳になると、任脈は空虚となり、太衝の脈は衰え、天癸は竭きて、月経は停止します。それゆえ身体は追い衰えて、もう再び子を産むことはできません。
月経は子宮内膜が剥がれ落ちるまでの過程であり、30歳前後でそのエネルギーはピークを迎えその後減退していきます。そして42歳を過ぎると妊娠できる可能性がさがってきます。
そして50歳前後に閉経を迎え、その時期を「更年期」とよばれます。更年期とは閉経に伴い卵巣機能の変化がおこる時期のことです。
月経という出産のメカニズムは女性にとって必要不可欠な生命活動であると同時に、人体にとって大きな負担になっています。つまり更年期とは、その状態にそろそろブレーキをかけて緩めましょう、そんな時期ともいえます。
漢方の陰陽という概念


「血は陰に属す」と言われます。更年期の時期は月経が停止し、血が身体に残るようになる。言わずもがな、血は温かい。すると、古くなった血は熱を帯びてくる。
この状態が続くと、五心煩熱(顔がのぼせる、手足が火照る、寝汗が多い)、そして「渇き」が出現します。これが陰血の不足によって発生する「熱」。これが更年期障害(ホットフラッシュ)の正体です。
陰血(ラジエーター)が不足してオーバーヒートしているような状態です。また、冷えたり火照ったりと寒熱の所見が同時に散見されます。
ほてり・のぼせ・発汗・イライラ・不安感・不眠・憂鬱感・動悸・胸痛・肩凝り・腰痛・手足のしびれ・むくみ・立ち眩み・不正出血など
こういった症状に対し、漢方には手段があります。
更年期障害(ホットフラッシュ)の漢方治療のポイント
旧血を和し、新血を産生する。
生薬には古血を綺麗な血に変えるための薬草があります。
例えば「当帰」。
当帰は古来より婦人の聖薬といわれ、月経不順や生理痛に効果があり、妻の病気が治って「当に帰る」というところから名付けたといわれています。
芍薬や川芎と組んで、生理痛や月経異常を改善させます。また、更年期障害のホットフラッシュに対しても「熱」を制す牡丹皮や山梔子と組んでその効果を発揮します。
つまり、血に働きかける生薬で綺麗な新血(陰血)を作ることで、暴走する陽気(血熱)をコントロールしようというわけです。これが漢方治療の要になります。
当帰の詳しい解説はこちら
更年期障害(ホットフラッシュ)に使用する漢方処方
更年期障害に使用する漢方薬を一部紹介します。
加味逍遙散 《女科撮要附方並註》
当帰・芍薬・白朮・茯苓・柴胡・牡丹皮・山梔子・甘草・生姜・薄荷
更年期障害(ホットフラッシュ)の代表方剤。しかし、運用には明確な使用条件がある。現代では「肝気鬱結」という精神異常に使われるケースが多いが、この方剤の原型である逍遙散は本来「血虚労倦・血熱相搏」という病態に使われている。つまり、陰血不足によって起こるホットフラッシュに適応する。逍遙散よりも胃気があり、のぼせや火照りなどの熱状が明確で、やや実証よりの方に著効する。
温経湯 《金匱要略/婦人雑病篇》
半夏・麦門冬・当帰・川芎・芍薬・人参・桂皮・阿膠・牡丹皮・甘草・生姜・呉茱萸
出典では「婦人年五十所」、つまり50歳を迎える更年期の女性に使われていた。「其証唇口乾燥するが故に之を知る」と記載があるように「渇き」が明確にあり、血虚と陰虚の狭間に用いる方剤。阿膠・人参・麦門冬が入る為、滋潤性が強い。温経湯よりも熱状や渇きが強ければ陰虚火旺であり、知柏地黄丸を用いる。
柴胡桂枝乾姜湯 《傷寒論》
柴胡・桂皮・栝楼根・黄芩・牡蛎・乾姜・甘草
出典は傷寒論だが、更年期障害に適応する場面がある。「陰津乾枯として結聚し五内を滋さず」と浅田宗伯先生の口訣が示しているように「枯燥」を目標とする方剤。津液不足で口が渇き、虚熱がある為寝汗が多い。損耗をこれ以上広げないようにと立ち上がる陽亢。しかし空回りし、かつ焦げている。戸田一成先生曰く「灰中の燻る火」。
桂枝湯 《傷寒論・金匱要略》
桂皮・芍薬・大棗・生姜・甘草
更年期障害の治療に忘れてはならないのが桂枝湯である。衆方の祖(あらゆる処方の大元)とされる漢方薬であり、桂枝加芍薬湯、桂枝加桂湯、建中湯加減と様々な処方の原型。陰陽両虚のホットフラッシュに適応する場面がある。金匱要略の婦人妊娠病、婦人産後病にも記載がある通り、実際に婦人病に有効であるケースは多い。
更年期障害(ホットフラッシュ)と漢方 まとめ


更年期障害に漢方薬が良いとお聞きすることがあります。これは周知の事実です。
しかし、漢方薬が効かないというお話もよく聞きます。これはおそらく効かない使い方をしてしまっているのではないかと思います。
更年期障害(ホットフラッシュ)を漢方で的確に改善するには
漢方薬は近年、ネットなどで簡単に手に入るようになりました。ですが、漢方薬を的確に運用するには専門的な知識、病態の見立てが必要になります。
重要なのは、更年期障害の病態を東洋医学的にどう捉えるか、です。
- 病因(なぜそうなったか)
- 病機(どこの機能が低下しているか)
- 治則(どうやって治せば良いか)
- 方剤(薬草をどのように使えば良いか)
これらが合致した時、漢方薬は本来の力を発揮します。
更年期障害でお困りの方、お力になれることがあればご相談下さい。