【漢方処方解説】小柴胡湯(しょうさいことう)

【漢方処方解説】小柴胡湯(しょうさいことう)

こちらの処方解説では、今までの書籍での学習と漢方研究会で習得した内容をベースに、実際に患者さまにお出しした経験から、感じたことや自分の考えを記載しています。

目次

小柴胡湯の出典

傷寒論

【第九六条】
[訓読]傷寒五六日、中風、往来寒熱、胸脇苦満、黙黙として飲食を欲せず、心煩し喜んで嘔し、或は胸中煩して嘔せず。或は渇し、或は腹中痛み、或は脇下痞鞕し、或は心下悸し、小便利せず、或は渇せず、身微熱有り、或は欬する者は、小柴胡湯を与へて之を主る。

[現代語訳]傷寒にかかってから五六日たつと、今までの悪寒発熱が往来寒熱に変じ、胸脇部がつまったように苦しく、物うくて飲食を欲せず、胸苦しく、たびたび吐くようになる。これは小柴胡湯の主治である。ところが時としては胸中が苦しく吐かないこともあり、また口渇のあることがあり、また腹が痛くことがあり、また脇下が痞えて堅くなり、また心下部が動悸がして、小便の出が少ないことがあり、また口渇がなくて、熱がうちにこもっていることもあり、また咳の出ることもある。このような場合も、小柴胡湯の主治である。

小柴胡湯の方
柴胡(半斤)黄芩(三両)人参(三両)甘草(三両)半夏(半升)生姜(三両)大棗(十三枚)
右七味、水一斗二升を以て、煮て六升を取り、滓を去つて再び煎じ、三升を取つて、一升を 温服す。日に三たび服す。

後へ加減の法
若し胸中煩して嘔せざるは、半夏人参を去つて、栝蔞実一枚を加ふ。
若し渇する者は、半夏を去つて、人参、前の成に合して四両半、栝蔞根四両を加ふ。
若し腹中痛む者は、黄芩を去つて、芍薬三両を加ふ。
若し脇下痞鞕するは、大棗を去つて、牡蛎四両を加ふ。
若し心下悸し、小便利せざる者は、黄芩を去つて、茯苓四両を加ふ。
若し渇せず、外微熱有る者は、人参を去つて、桂三両を加へ、温め覆つて微し汗を取れば愈ゆ。
若し欬する者は、人参大棗生姜を去つて、五味子半升、乾姜二両を加ふ。

【第九九条】
[訓読]傷寒四五日、身熱し、悪風し、頚項強ばり、脇下満し、手足温にして渇する者は、小柴胡湯之を主る。

[現代語訳]傷寒にかかって四五日たち、陽明病にみられる身熱と渇があり、また一方では悪風と頸強があって、表証もある。更に脇下満と少陽病の徴候もある。このように三陽の合病であることを知る。三陽の合病の場合、汗・吐・下を禁じて白虎湯または柴胡剤で邪を清解する。この場合は裏熱が激しくないので小柴胡湯の主治である。

【第一〇〇条】
[訓読]傷寒、陽脈渋、陰脈弦なるは、法当に腹中急痛すべき者は、先づ小建中湯を与ふ。差へざる者は、小柴胡湯を与へて之を主る。

[現代語訳]傷寒にかかり、陽脈が濇(血行が悪く、正気が外にめぐり難い)で、陰脈が弦であれば、当然に腹痛を訴えるはずであるが、まだ腹痛の現れない時でも、その脈状によって、小建中湯を与えるが良い。小建中湯で裏虚を補っても、なお傷寒の邪が解せざる者は、少陽病の小柴胡湯の主治である。

【第一四四条】
婦人中風、七八日、続いて寒熱を得、発作時有り、経水適に断つ者は、此れ熱血室に入ると為す。其の血必ず結す。故に瘧の状の如く、発作時有らしむ、小柴胡湯之を主る。

【第三七九条】
嘔して発熱する者は、小柴胡湯之を主る。

【第三九四条】
傷寒差えて已後、更に発熱する者は、小柴胡湯之を主る。脈浮なる者は、汗するを以て之を解す。脈沈実なる者は、下すを以て之を解す。

金匱要略

〇黄疸の病の脈証ならびに治[第十五]
諸嘔、腹痛して嘔する者は、柴胡湯に宜し。

〇嘔吐、噦、下利の脈証と治[第十七]
嘔して発熱する者は小柴胡湯之を主る。

〇婦人雑病の脈証ならびに治[第二十二]
婦人中風七八日、続けて寒熱を来たし、発作時有り、経水適(たまたま)断つは、此れ熱、血室に入ると為す。其の血必ず結す。故に瘧状の如く発作時有らしむ。小柴胡湯之を主る。

小柴胡湯の構成生薬・効能

小柴胡湯の構成生薬

柴胡・黄芩・半夏・生姜・大棗・人参・甘草

各生薬の効能
  • 柴胡×黄芩:小柴胡湯の主薬。柴胡は肝臓の機能を高め、胸脇苦満を主治し、黄芩の協力を得て胸脇部の消炎・解熱・疎通をはかる。
  • 半夏×生姜:胃の停水を治す。
  • 人参:大棗甘草と協力して胃の働きを助け、胸脇心下部の充塞感を緩解する。
  • 大棗×甘草:諸薬の調和。柴胡黄芩の燥性を和らげる。

小柴胡湯の運用のポイント

小柴胡湯の使用目標

傷寒にかかり発病して3日~7日、半表半裏証(少陽病)の時期に用いる。太陽病から陽明病に行かず、咽が渇き、口が粘る、口が苦い、食欲がない、ムカムカする、胸や脇が張って苦しい、目がくらむ、咽や脇が痛い、咽から胃や肝臓までの症状が出る時に用いる。弛張熱を繰り返す(往来寒熱)。「嘔して発熱する者」「傷寒差えて已後、更に発熱する者」に用いる。
①発熱性疾患②化膿性炎症③呼吸器系の炎症④肝炎⑤月経期の発熱・性器の炎症による発熱⑥婦人雑病⑦向精神薬として⑧胃薬として⑨鎮咳去痰薬として⑩小児科に応用⑪表証がとれたのちの咳嗽

小柴胡湯が合う方の身体所見に見られるポイント

  • 往来寒熱
  • 胸脇苦満
  • 腹直筋の緊張
  • 心下痞硬
  • 首筋の凝り(頸項強)
  • 口が粘る、口が苦い、嘔気、食欲不振などの消化器症状
  • 脈:弦、有熱時はやや有力
  • 舌:紅、湿潤、薄い白苔

歴代医家による小柴胡湯の使用経験・口訣

  • 本方は少陽病を代表する処方である。また本方の適応する体質があって、その特有の体質を改善する。すなわち大体において瘦せ型または筋骨質で、いわゆる結核にかかりやすい傾向があり、脈も力があり、腹部も緊張し、胸脇苦満が特徴である。上腹角は狭く、本方証特有の疾患にかかる、その体質を改善することができる。~体質的に用いる時は、必ずしも往来寒熱や嘔吐などなくても良いのである。胸脇苦満の証がそれほど顕著でなくとも用いてよいことがある。~漢方処方の中でこれほど応用範囲の広いものはない。(臨床応用漢方処方解説/矢数道明)
  • 小柴胡湯を臨床に応用する場合、よく言われる「胸脇苦満」や「往来寒熱」がなければ使用できないという考えを捨てると、それだけでも広く使えるようになる。そういうことは、原典の傷寒論にも次のように述べている。「傷寒、中風、柴胡の証あり、但だ一証をみれば便ち是なり。悉く具わること必ずとせず」(東医雑録(3)/山本巌)
  • 乳幼児の中耳炎は、小柴胡湯、小柴胡湯加石膏、柴胡桂枝湯などを用いる機会が多いので注意してほしい。乳幼児で突然原因不明の高熱が出て、夜間など泣いて眠らない時には、先ず急性中耳炎を疑ってみる必要がある。このような場合は乳を吐いたり、飲食物を吐いたりすることも多い。これには小柴胡湯加石膏の証が多い。
  • 小柴胡湯加牡蛎・大柴胡湯加牡蛎→これ等の方は円形脱毛症によく効く。私は小柴胡湯加牡蛎で、10数人の円形脱毛症を治した経験がある。服薬期間は数ヶ月から1年位でよい。
  • 頸項強ばるとは耳朶の後を下に下って、鎖骨上窩または肩峰突起に向かって筋肉の強ばるのを言う。およそ柴胡剤を用いる肩こりは、小柴胡湯に限らず、大柴胡湯その他の柴胡湯の場合でも、同じく、この頸項部の緊張が主となる。それと同時に季肋下に膨満、抵抗を証明する。だからもし季肋下に膨満抵抗があって(胸脇苦満)、頸項強ばるの状があれば、柴胡剤を用いる肩こりと考えるがよい。
  • 幼児や少年では、胸脇苦満を認めなくても、柴胡剤を用いて良く効く例が多い。~原因不明の熱、或いは種々の治療に抵抗して熱の下がらないものなどに、この方を用いて、4,5日で下熱するものがある。ことに小児には著効のある場合が多い。
  • 小柴胡湯は、瘰癧(結核菌の感染による頸部のリンパ節の慢性的なはれもの)、乳腺炎、便毒、下疳(性器の皮膚または粘膜の感染症)および肝経分の一切の腫瘍、発熱、潮熱し、或いは飲食を思うこと少なきをを治す。~木村長久氏の治験より引用:小柴胡湯加桔梗石膏は急性扁桃腺炎、乳房炎にも応用しているが、頸部リンパ腺炎および耳下腺炎に著効がある様である。(症候による漢方治療の実際/大塚敬節)
  • 此の方は往来寒熱、胸脇苦満、黙々不欲飲食、嘔吐、或は耳聾が目的なり。凡そ此等の証あれば胃実の候ありとも柴胡を与ふべし。老医の説に、脇下と手足の心と両処に汗なきものは胃実の証ありとも柴胡を用べしとは此の意なり。総べて此の方の之く処は両肋の痞鞕拘急を目的とす。所謂胸脇苦満これなり。また胸腹痛み拘急するに小建中湯を与へて愈えざるに此の方を用ゆ。今の人、多く積気ありて風邪に感じ、熱裏に閉じて発せざれば必ず心腹痛あり。此れ時積なりとて、其の針薬を施して治せざる者、此の方にて、速やかに愈ゆ。仲景の言欺くべからず。また小児食停に外邪相兼ね、或は瘧の如きも、此の方にて解す。また久しく大便せざる者、此の方にて程能く大便を通じ、病解する者なり。上焦和し津液通づるの義なり。後世、三禁湯と名づくる者は、蓋し汗吐下を禁ずる処へ用ゆるが故なり。また此の方に五味子、乾姜を加へて風邪胸脇に迫り、舌上微白胎ありて、両脇に引きて咳嗽する者に用ゆ。治験は『本草衍義』の序例に見ゆ。また葛根、草果、天花粉を加へて、寒熱瘧の如く咳嗽甚だしき者に用ゆ。東郭の経験なり。其の他、呉仁斎小柴胡湯加減法の如きは、各方の下に弁ず。故に贅せず。(浅田宗伯/勿誤薬室方函口訣)
引用参考文献
  • 症候による漢方治療の実際:大塚敬節著 南山堂
  • 勿誤薬室方函口訣:浅田宗伯著
  • 註解傷寒論:影印本 
  • 傷寒論講義:奥田謙蔵著 医道の日本社
  • 実践漢薬学:三浦於菟著 東洋学術出版社
  • 薬徴:吉益東洞原著 大塚敬節校註 たにぐち書店
  • 活用自在の処方解説:秋葉哲夫著 ライフサイエンス
  • 臨床応用漢方処方解説:矢数道明著 創元社
  • 漢方常用処方解説:高山宏世編著 三孝塾
  • 類聚方広義重校薬微:吉益東洞原著 尾台榕堂校註 西山英雄訓訳 創元社
  • 新古方薬嚢:荒木性次著
  • 中医処方解説:伊藤良 山本巌監修 神戸中医学研究会 編著 医歯薬出版株式会社
  • 東医雑録(3):山本巌著 燎原
  • 證&二味の薬徴:田畑隆一郎著 源草社
  • 金匱要略談話:大塚敬節著 創元社
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