【漢方処方解説】呉茱萸湯(ごしゅゆとう)
こちらの処方解説では、今までの書籍での学習と漢方研究会で習得した内容をベースに、実際に患者さまに処方し、感じたことや自分の考えを記載しています。
目次
呉茱萸湯の出典
傷寒論・金匱要略
傷寒論【第二四三条】/陽明病篇
傷寒論【第三〇九条】/少陰病篇
傷寒論【第三七八条】 /厥陰病篇
金匱要略/嘔吐、噦、下利病篇
呉茱萸湯の構成生薬・効能
呉茱萸3g・大棗4g・人参2g・生姜1.5g
各生薬の効能
- 呉茱萸:苦くて辛く、温める力があり、寒えた水を逐い、濁陰の上衝を降下させる。(漢方処方解説/矢数道明)また消化管の水分を血中に吸収する。(中医処方解説/山本巌・伊藤良)疎肝行気作用。(実践漢薬学/三浦おと)
- 生姜:嘔吐を止める。呉茱萸にはひね生姜が理に適う。
- 呉茱萸×生姜:制吐作用が強まる。
- 大棗:鎮痙作用があり、呉茱萸・生姜の刺激性を和らげる。
- 人参:心下痞硬を治す。
呉茱萸湯の運用のポイント
呉茱萸湯の使用目標
- 本方の主証は3つある(陽明病の胃寒嘔吐・少陰病の吐下と煩躁・厥陰病の頭痛と涎沫嘔吐)。この3つの症候は各々異なるが、本態は皆同じ胃の虚寒に属す。(漢方常用処方解説/高山宏世)つまり呉茱萸湯の適応は六病位でいえば少陽~太陰病にあたるのではなかろうか。
- アイスコーヒーやかき氷などの冷飲食摂取後の実寒証に使用する。
- 平素から疲れやすく、食欲不振、腹や手足の冷えなどの虚寒証の症状があり、食べると吐き気がする、嘔吐、吃逆(しゃっくり)、涎唾が多い、また心下部の膨満感、疼痛、圧痛抵抗を目標とする。(活用自在の処方解説/秋葉哲生)
- 呉茱萸湯は味が悪く、合っている人でも飲みにくい場合がある。
呉茱萸湯が合う方の身体所見に見られるポイント
- 胸苦しさと心下痞硬
- 悪心、嘔吐(嘔して胸満)
- 手足厥冷
- 激しい片頭痛
- 脈は沈遅、または頻数のこともある
- 舌質は淡白、舌苔は白滑
歴代医家による呉茱萸湯の使用経験・口訣
- 発作性にくる激しい頭痛に用いる。発作の激しい時は嘔吐が来る。疲れた時、食べ過ぎた時、婦人では月経の前によく起こる。発作の起こる時は、頸部の筋肉が収縮するから、肩から首にかけてひどく凝る。左から右にくる場合が多く、耳の後ろからこめかみにまで連なる。この首こり具合がこの処方を用いる一つの目標になる。~心下部が膨満し、患者も胃がつまったようだと訴えることが多い。(心下逆満)これも大切な目標である。また発作時には足がひどく冷える。脉も沈んで遅くなる傾向がある。また一種の煩躁状態を伴うことがあり、じっと安静にしておれないで、寝たり起きたり苦悶する傾向がある。(漢方治療の実際/大塚敬節)
- 呉茱萸湯の患者には、頭痛のする部分が燃えるように熱感がある場合がある。これは古人が真寒仮熱とよんだもので、本当の熱ではない。(漢方治療の実際/大塚敬節)
- この方は濁陰を下降するを主とす。故に涎沫を吐するを治し、頭痛を治し、穀を食して嘔せんと欲するを治し、煩燥吐逆を治す。~又久痛、水穀を吐する者、此方に沈香を加えて大いに効あり。(勿誤薬室方函口訣/浅田宗伯)
- 呉茱萸は、鎮嘔・制吐の半夏、温中散寒の乾姜、利水の茯苓、降気(消化管のジスキネジーすなわち蠕動運動を緩解し停留した内容物をスムーズに下部へ送る)枳実など諸作用を兼ねそえた薬物であると考えている。(中医処方解説/伊藤良・山本巌)
- 幽門部の機能異常を緩解するのが呉茱萸・枳実である。また、胃内の分泌過剰を吸収するのが呉茱萸・白朮・茯苓である。悪心・嘔吐には半夏・生姜・呉茱萸が奏功する。(中医処方解説/伊藤良・山本巌)
呉茱萸湯の使用上の注意
呉茱萸湯の注意点
呉茱萸は辛熱性が強い為、気を損傷し熱を生じやすい。陰虚火旺には禁忌。
引用参考文献
- 註解傷寒論:影印本
- 傷寒論講義:奥田謙蔵著 医道の日本社
- 実践漢薬学:三浦おと著 東洋学術出版社
- 活用自在の処方解説:秋葉哲夫著 ライフサイエンス
- 臨床応用漢方処方解説:矢数道明著 創元社
- 漢方常用処方解説:高山宏世編著 三孝塾
- 類聚方広義重校薬微:吉益東洞原著 尾台榕堂校註 西山英雄訓訳 創元社
- 金匱要略談話:大塚敬節著 創元社
- 中医処方解説:伊藤良 山本巌監修 神戸中医学研究会 編著 医歯薬出版株式会社