【漢方処方解説】酸棗仁湯(さんそうにんとう)
こちらの処方解説では、今までの書籍での学習と漢方研究会で習得した内容をベースに、実際に患者さまにお出しした経験から、感じたことや自分の考えを記載しています。
目次
酸棗仁湯の出典
金匱要略/血痺虚労病篇
酸棗仁湯の構成生薬・効能
酸棗仁湯の構成生薬
酸棗仁15g・知母3g・川芎3g・茯苓5g・甘草1g
各生薬の効能
- 酸棗仁:心陰を補い自汗・盗汗を止める。胸隔煩燥眠る能はざるを主治する。不眠以外にも気持ちのイライラ、熱を鎮める効がある。
- 知母×甘草:滋陰潤燥作用を有し、内熱(口乾・自汗のあるもの)を治す。その為、陰虚内熱に使いやすい。
- 川芎×茯苓:血と水を下降して鎮静し、眠るを得ざるを治す。
酸棗仁湯の運用のポイント
酸棗仁湯の使用目標
心身が疲れ弱って眠れないもの。虚からくる胸中の熱と不安、イライラなど。ここを目標とする。疲れて疲れて疲れた矢先に入った興奮状態のスイッチを切る。嗜眠(だらっと寝すぎる)にも適応する。
桂枝湯を使っても改善しない場合、更に一段深い状態に適応する。不眠症に使われやすい傾向があるが、適応症の的は狭い。
酸棗仁湯が合う方の身体所見に見られるポイント
- 虚労(心身が疲れ弱った状態)
- 胸隔煩燥(胸が苦しく煩わしいこと)
- 五身煩熱
- 寝汗を掻きやすい
歴代医家による酸棗仁湯の使用経験・口訣
- 肝が魂を蔵すれば相火は内にやどる。煩が心に生じ、心火動ずればすなわち相火は之にしたがう。そして内に火あらば擾乱し、魂は帰るところなし。(张秉成・清)
- 主薬の酸棗仁には一種の強壮鎮静薬としての作用がある。~不眠症の聖剤のように思われるが、治験は比較的少ない。(漢方処方解説・矢数道明)
- しかるに煩躁は、毒のしわざにして人の造なり。酸棗能く之を治す。故に胸隔煩燥して~、則ち煩躁やんでごびもとに復す。(不眠も嗜眠も治る)(薬徴・吉益東洞)
- 東堂先生、一病人、昏々として醒めず死状の如く、5,6日に及ぶ者を治するに此の方を用ひて効あり、円機活法を謂ふべし。~健忘(ものわすれ)・驚悸(おどろき動悸する状)・怔忡(むなさわぎ)の三症には此の方に宜しき者あり。(類聚方広義・尾台容堂)
- 平常ひひよわき人、急に胸騒ぎして眠ること出来ざる者本方の正証なり、つまらぬ事など気に掛かりて眠れぬ者にも宜し、若し大なる心配などあって眠られぬ者は本方では治り難し。酸棗仁湯を用いて余計に眠れなくなる場合あり~(古方薬嚢・荒木性次)
- 此の方は心気を和潤して安眠せしむるの策なり。同じ眠るを得ざるに三策あり。若し心下肝胆の部分に当りて停飲あり、これが為に動悸して眠るを得ざるは温胆湯の症なり。若し胃中虚し、客気膈に動じて、眠るを得ざる者は、甘草瀉心湯の症なり。若し血気虚燥、心火亢ぶりて眠るを得ざる者は、此の方の主なり。『済生』の帰脾湯は此の方に胚胎するなり。また『千金』酸棗仁湯、石膏を伍する者は、此の方の症にして余熱ある者に用ゆべし。(勿誤薬室方函口訣・浅田宗伯)
酸棗仁湯の使用上の注意
酸棗仁は実熱証や湿熱痰の不眠には禁忌。
引用参考文献
- 実践漢薬学:三浦於菟著 東洋学術出版社
- 薬徴:吉益東洞原著 大塚敬節校註 たにぐち書店
- 活用自在の処方解説:秋葉哲夫著 ライフサイエンス
- 臨床応用漢方処方解説:矢数道明著 創元社
- 漢方常用処方解説:高山宏世編著 三孝塾
- 類聚方広義重校薬微:吉益東洞原著 尾台榕堂校註 西山英雄訓訳 創元社
- 新古方薬嚢:荒木性次著
- 證&二味の薬徴:田畑隆一郎著 源草社
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