非結核性抗酸菌症(肺MAC症)の漢方治療

非結核性抗酸菌症(肺MAC症)の漢方治療

非結核性抗酸菌症(肺MAC症)と診断されました。切れにくい痰がこびり付いて咳が毎日出ています。食欲も落ちて痩せてしまって…。

このうなお悩みをお持ちの方に記事を書いています。

目次

非結核性抗酸菌症(肺MAC症)とは?

非結核性抗酸菌症(肺MAC症)とは?

【前提】非結核性抗酸菌症(肺MAC症)とは?

肺Mac症(肺結核マック症またはマイコバクテリウム・アビウム・コンプレックス感染症)は、結核菌以外の抗酸菌が起こす病気で、非結核性抗酸菌による肺感染症の一種です。

肺結核と違い、人から人に直接感染しづらいというのが特徴で、酸に非常に強い菌になります。多くが免疫機能の減弱を伴いながら進行していきます。患者さま自身の弱さに起因して、本疾患が発症してしまうという印象があります。

非結核性抗酸菌症(肺MAC症)の症状

以下に肺MAC症の一般的な症状や特徴を挙げます。

1. 慢性的な咳: 長期間にわたって咳が続きます。痰も増加し、稀に血が混じることもあります。

2. 喀痰: 患者は粘り気のある痰を咳出すことがあります。痰の色は透明から黄色や緑色まで様々です。

3. 発熱: 発熱や高体温が継続的に起こることがあります。

4. 倦怠感や体力低下: 疲れやすい、元気が出ない、食欲不振などの症状が現れることがあります。

5. 間欠性の胸痛: 肺マック症によって肺の組織に炎症が起こるため、時折胸痛が生じることがあります。

6. 呼吸困難: 重症の肺マック症では、呼吸が困難になることがあります。

7. 高齢者や免疫力が低下している人の場合、体重減少や寝汗が生じることがあります。

非結核性抗酸菌症(肺MAC症)の原因

抗酸菌の多くは川や池・土・空気中のほこり・お風呂の残り水などの「環境因子」と過労や手術後、過度なストレスなどによる「免疫の低下」が原因になります。

非結核性抗酸菌症(肺MAC症)の患者さんの95%は「40歳以上の中高年女性」になり年間に約8,000人の新規患者の発生が報告されています。また感染初期の殆どが無症状です。突然血痰が出て、病院で検査の結果肺MAC症と診断され、驚かれる方も少なくありません。

非結核性抗酸菌症(肺MAC症)の診断

画像検査(CT検査)と細菌学的検査(喀痰培養検査気管支洗浄検査)の両方用いて総合的に判断します。

  • CTで特徴的な画像所見がある
  • 喀痰で菌が2回以上培養される(痰が出ない場合は気管支鏡検査で菌を培養する)

このような検査で、条件が揃った場合に非結核性抗酸菌症と診断されます。

非結核性抗酸菌症の診断は難しいケースが多く、症状・画像所見・組織所見だけでは結核と鑑別できません。したがって起因菌を同定することが必要で、主に喀痰にて数回にわたり検査されます。

非結核性抗酸菌症(肺MAC症)の西洋医学的治療

MAC菌が原因の場合で、症状や肺の画像所見が悪化してくる場合には、3剤併用の化学療法が行われます。クラリスロマイシンと抗結核薬2種類(リファンピシン・エタンブトール)の内服治療です。

また、痰の中の菌の量が多い場合は、ストレプトマイシンやアミカシン、カナマイシンという注射薬のうち1剤を追加(治療初期の2~6ヶ月間)する4剤併用療法が現在の標準的な治療になっています。多くの薬を組み合わせて使うのは、薬の効果を高めるためと、薬の効きづらい耐性菌の発生を抑え、再発を防ぐ目的のためです。

少なくとも一年以上(菌が培養されなくなってから1年間)は毎日継続します。しかし菌が完全に消えることはまれであり、再発すれば治療を再開します。また多剤併用療法に伴う副作用として、肝機能障害、発熱、発疹と消化器症状(食欲不振)や白血球減少(だるさ、倦怠感)などの症状があげられます。

漢方医学的な視点で考える非結核性抗酸菌症(肺MAC症)

漢方医学的な視点で考える非結核性抗酸菌症(肺MAC症)

漢方医学的な視点より、非結核性抗酸菌症(肺MAC症)の原因について挙げさせて頂きます。

  • 正気(免疫力)の低下

もともと体力があり元気な方でも、感染性の強い菌やウィルスに侵されれば誰しもが感染症を発症します。この場合、坑ウイルス剤や抗生剤で原因菌を叩くのは非常に有効で、実際に優れた効果を発揮します。

そうでない場合。菌自体にはそれほど感染力はなく、正気(免疫力)がある方であれば特に問題となるような菌でなく、しかし免疫力が衰えて、このような弱い菌にまで感染を起こしてしまう場合があります。高齢者など「身体の弱さ」があるような方が罹りやすい病、これが非結核性抗酸菌症(肺MAC症)です。

非結核性抗酸菌症(肺MAC症)の漢方治療

非結核性抗酸菌症(肺MAC症)の漢方治療の重要な点は3つです。

  • 咳を止める為、「肺痿・肺癰」に対しての治療を行う
  • 肺の線維化が進んでいれば、活血する
  • 正気(免疫力)を底上げする
  • 咳を止める為、「肺痿・肺癰」に対しての治療を行う

「肺痿・肺癰」について、以下のように述べます。

肺痿:肺熱が長期的に継続することで肺陰を消耗させていく病です。主に結核のような長期慢性化しやすい感染症により起こると考えられています。(これが急激に起こった場合が間質性肺炎)

肺癰:気管支拡張症や肺化膿症などのように、膿性の痰がでて微熱や胸痛を起こしている状態です。

要は、「肺陰を潤し、粘稠な痰を除き、肺の熱を除くことで咳を止める治療」が主となります。

麦門冬・人参・粳米・甘草・百合などで肺陰を補い(麦門冬湯)、

痰が多ければ半夏・陳皮・杏仁・貝母・桔梗・枳実などの化痰薬(二陳湯・排膿散及湯)を、

膿性の痰なら葦茎・栝楼根・黄芩・柴胡などの清熱薬(葦茎湯・柴胡剤)を、

血痰がでているなら地黄・阿膠・玄参・黄連などの止血薬(百合固金湯・清燥救肺湯)を、

患者さまの状態に合わせて対応します。

  1. 肺の線維化が進んでいれば、活血する

慢性の消耗性肺疾患では、乾いた咳や濃く粘稠な痰を継続させていると、咳とともに痰に血が混ざることがあります。その場合、阿膠や玄参、黄連などの肺部の出血を抑える止血薬をもって対応します。

しかし、これらの止血剤を用いても血痰が治まらない場合、「瘀血(おけつ)」という解釈をもって治療に当たることがあります。通導散、葦茎湯などが代表方剤です。

「瘀血」とは血行障害を指し、特に静脈血のうっ血や組織の線維化・瘢痕化・またはこれらに至る流れを「瘀血」と捉えて治療します。

非結核性抗酸菌症では、痰に血が混じるなどの血痰を生じているケースや、線維空洞型などの難治性の病態において主に捉えられやすい病態です。

特に気管支拡張症を合併している場合では、病変部への肺動脈が閉塞し、これに変わって気管支動脈が増殖してくることがあります。これらは血痰・喀血の原因になり、「瘀血」と捉えて治療を行うことで出血が止まることがあります。

肺MAC症の「瘀血」について漢方坂本の坂本壮一郎先生の解釈を引用
  • 正気(免疫力)を底上げする

非結核性抗酸菌症は弱い菌に対しても感染を長引かせてしまう、体の弱さに起因していることが多い疾患です。したがって本疾患では「正気(免疫力)」を補うことで肺の機能を高め、自力で回復しやすい状況へと向かわせていく治療が重要になってきます。

ここで重要なことは2点。肺の機能を補い、胃腸機能を鼓舞することです。

*肺の機能を補う

つまり、肺陰を補う事(肺を潤わせる)と血行循環を回復します。代表的な方剤は麦門冬湯と当帰補血湯です。麦門冬・人参・甘草で肺陰を補い、当帰・黄耆などの生薬で血行促進を図ります。

*胃の消化機能を鼓舞する

麦門冬湯は肺陰を補う薬であると同時に胃薬でもあります。肺と胃は静脈と動脈を介して繋がっており、胃の消化機能を鼓舞することで肺はもちろん、身体の正気、つまりは全身的な機能(免疫力)の底上げにつながります。

非結核性抗酸菌症(肺MAC症)に使われる漢方薬

  • 肺痿の治療

肺痿:肺熱が長期的に継続することで肺陰を消耗させていく病です。主に結核のような長期慢性化しやすい感染症により起こると考えられています。(これが急激に起こった場合が間質性肺炎)

肺痿には段階があります。段階を見極めて方剤を選択します。

肺痿に使用する漢方薬
  • 麦門冬湯《金匱要略》:麦門冬・半夏・粳米・大棗・人参・甘草
  • 沙参麦門冬湯《温病条弁》:沙参・麦門冬・半夏・粳米・大棗・人参・甘草
  • 竹葉石膏湯《傷寒論》:竹葉・石膏・半夏・麦門冬・人参・甘草・粳米
  • 五蒸湯《外台秘要》:竹葉・石膏・黄芩・知母・葛根・茯苓・人参・甘草・粳米・地黄
  • 麦煎散《蘇沈良方》:柴胡・当帰・茯苓・白朮・甘草・石膏・大黄・地黄・常山・乾漆・鼈甲・小麦
  • 秦芁扶羸湯《楊氏家蔵方》:柴胡・半夏・人参・甘草・生姜・大棗・秦艽・地骨皮・紫菀・烏梅・当帰・鼈甲
  • 聖剤人参養栄湯:柴胡・桑白皮・貝母・桔梗・枳実・杏仁・茯苓・人参・甘草・五味子・阿膠
  • 寧肺湯《楊氏家蔵方》:桑白皮・五味子・阿膠・麦門冬・人参・甘草・茯苓・白朮・当帰・川芎・芍薬・地黄(『勿函』には人参を去ると記載あり)
  • 却労散:五味子・阿膠・黄耆・当帰・芍薬・地黄・人参・甘草・茯苓・大棗・生姜
  • 補肺湯《備急千金要方》:麦門冬・五味子・桂皮・大棗・粳米・桑白皮3・桂枝・乾姜・桑白皮・五味子・款冬花・麦門冬・粳米・大棗
  • 滋陰至宝湯《万病回春》:当帰・芍薬・蒼朮・茯苓・陳皮・柴胡・知母・香附子・地骨皮・麦門冬・貝母・薄荷葉・甘草
  • 百合固金湯《通雅》:麦門冬・百合・当帰・地黄各・芍薬・貝母・玄参・桔梗・甘草
  • 清燥救肺湯《医門法律》:桑葉・石膏・人参・甘草・胡麻仁・阿膠・杏仁・麦門冬・枇把葉
  • 滋陰降火湯《万病回春》:当帰・芍薬・地黄・天門冬・麦門冬・陳皮・知母・蒼朮・黄柏・甘草・大棗・生姜
  • 肺癰の治療

肺癰:気管支拡張症や肺化膿症などのように、膿性の痰がでて微熱や胸痛を起こしている状態です。

肺痿と同じく、肺癰の治療も段階を見極めて方剤を選択します。

癰の治療の原則
  • 「発表」・・・発熱悪寒を感じる時期
  • 「清熱解毒」・・・微熱継続、強く化膿を生じる時期
  • 「透托」・・・熱状が落ち着くも膿性の痰が多く喀出される時期
  • 「補托・活血」・・・熱は下がったがいつまでも肺の機能が回復せず痰が止まないという時期
STEP
発表が必要な段階
  • 麻黄湯《傷寒論》:麻黄・桂皮・杏仁・甘草
  • 小青竜湯加石膏《金匱要略》:麻黄・芍薬・乾姜・甘草・桂皮・細辛・五味子・半夏
  • 麻杏甘石湯加桔梗《傷寒論》《類聚方広義》:麻黄・杏仁・甘草・石膏・桔梗
STEP
微熱や往来寒熱がある段階
  • 柴胡桔枳湯加蒂藶子《勿誤薬室方函口訣》《張氏医通》:柴胡・半夏・生姜・黄芩・栝楼仁・桔梗・甘草・枳実・蒂藶子
  • 柴胡桂枝乾姜湯《傷寒論》:柴胡・桂皮・栝楼根・黄芩・牡蛎・乾姜・甘草
STEP
熱症なく微熱や胸中甲錯(皮膚に潤いがなくなりカサカサとしている状態)、膿性の痰を伴う場合(清熱・排膿・駆瘀血が必要)
  • 葦茎湯(加四順湯)《金匱要略》:薏苡仁・瓜子・桃仁・葦茎・川貝母・桔梗・紫苑・甘草

*咳嗽が強い時は加四順湯

STEP
熱症なく膿性の痰や咳のみの場合

肺癰湯《叢桂亭医事小言》:杏仁・貝母・桔梗・黄芩・括呂根・白芥子・甘草(浅田宗伯は黄芩を生姜に変えている)

STEP
「透托」が必要な場合

透托:膿を軟化させて排膿へ促す

*やや熱状が混在する状態

  • 肺癰新湯《医宗必読》:薏苡仁・桔梗・黄耆・白芨・貝母・生姜・金銀花・甘草・橘皮・生姜・葶藶子
STEP
「補托・活血」が必要な場合

補托:膿を排膿へ促す力を高める

*熱状がほぼないか、少ない状態

  • 桔梗湯《外台秘要方》当帰・地黄・甘草・桔梗・薏苡仁・敗醬根・桑白皮・木香

あなたの非結核性抗酸菌症(肺MAC症)改善に最適な漢方薬をさせていただきます!

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私が初めて非結核性抗酸菌症(肺MAC症)の患者さまとお会いした時のことです。

ご夫婦で薬局に来られ、奥様をなんとか助けてほしいと旦那様が仰られました。

その時に肺MAC症状について書かれていた本を持ってきて下さり、その本には旦那様が熟読された後がありました。その患者さまを見送った時、涙が出ました。漢方でなんとか助けてあげたいと…。

私にとっても思い入れがある疾患。それがこの非結核性抗酸菌症(肺MAC症)です。

漢方薬は近年、ネットで簡単に手に入るようになりましたが、的確な処方をするためには専門的な知識、病態の見立てが必要です。

重要なのは、病態を東洋医学的にどう捉えるかです。

  1. 病因(なぜそうなったか)
  2. 病機(どこの機能が低下しているか)
  3. 治則(どうやって治せば良いか)
  4. 方剤(薬草をどのように使えば良いか)

私たち「漢方のハセガワ薬局」へご相談いただければ、あなたに最適な漢方薬をご提案いたします。症状にお悩みの方は、ぜひご相談ください。

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